第3章 信頼
体勢を崩しながらも踏み込み直し、霧島は木刀を横へ薙いだ。
沖田は軽やかに半歩下がってそれをかわし、笑みを深める。
「いいね、目が死んでない」
息が上がり、喉が焼けるように乾く。
それでも霧島は視線を逸らさず、次の一撃を繰り出した。
沖田は受け流し、床板を滑るように背後へ回り込む。
(速い――!)
間髪を入れず、沖田が霧島の背へ木刀を添えるように止めた。
力は込められていないのに、決定的な敗北の感覚が霧島を貫く。
「はい、そこまで」
沖田が軽く笑い、木刀を引いた。
稽古場の空気が一気に緩み、見物していた隊士たちの間から感嘆の息が漏れる。
霧島は膝をつき、荒い呼吸を整えた。
全身から汗が滴り落ちるが、胸の奥には確かな充実が広がっている。
「…………ありがとう…ございました」
頭を下げる霧島に、沖田はひょいと木刀を肩に担いで微笑んだ。
「悪くなかったよ。反応も速いし、腰も据わってる。今日明日でどうにかなるものじゃないけど、伸びる素質はあるね」
斎藤が静かに近づき、霧島の背を一度だけ軽く叩く。
「よくやった。稽古の目的は勝つことだけじゃない。心を鍛え、立ち上がる力を身につけることだ」
霧島は深く息を吸い、汗を拭いながら頷いた。
沖田は稽古場を見渡し、にこりと目を細める。
「さて、次は誰が行く?このままじゃ霧島くんが場を独占しちゃうよ」
周囲に笑いが広がり、稽古場は再び活気を取り戻す。
霧島は木刀を握り直し、まだ震える指先を見つめた。
稽古場に再び木刀の音が戻り、別の隊士が沖田に挑んでいる。
霧島は隅に腰を下ろし、乱れた息を整えながら濡れた前髪を指で払いのけた。
胸の奥には、敗北の悔しさと同じだけ、妙な清々しさが広がっている。
斎藤が静かに近寄り、片膝をついて霧島の肩を軽く叩いた。
「よくやった。立会い稽古としては十分だ。無理をすれば身体を壊す」
霧島は深く息を吐き、頷く。
「……はい、ありがとうございます」
「あんたは俺の見込んだ通りだ。期待している」
斎藤はわずかに目を細め、口元に薄い笑みを浮かべた。
胸の奥に熱いものが広がり、霧島は静かに頭を下げる。
そして木刀を握り直し、素振りを開始した。