第3章 信頼
布団へ戻り、身を沈めたものの、霧島の瞼はなかなか閉じなかった。
襖の向こうで吹き抜ける夜風が、細く軋む音を立てている。
その音が静けさをいっそう際立たせ、眠りを遠ざけていく。
耳の奥では、先ほど斎藤が告げた言葉が何度も反芻されていた。
「――あんたはもう一人じゃない」
その確かな響きが、心の奥にじんわりと広がっていく。
冷たく張りつめていた胸の奥を、ゆっくりと、だが確かに溶かしてくれるようだった。
(……私は一人じゃない)
その実感は温もりとなり、凍りついた心を少しずつ解きほぐしていく。
だが同時に、夢で聞いた両親の声もまた、消えずに残っていた。
「……お前のせいだ」
あの冷たい響きは、まるで現実の言葉のように鮮烈だった。
霧島は枕に顔を埋め、深く息をつく。
(あれはただの夢だ。……夢に過ぎない。――だけど)
否定の言葉を心で繰り返しながらも、胸の奥に澱のように沈んだ罪悪感は拭えなかった。
夢は心の奥底を映す鏡だとすれば――あの言葉は、ずっと自分が抱いてきた負い目そのもの。
新選組に身を投じた理由。
剣技を認められたいという思いも確かにあった。
けれど、それ以上に――亡き両親に報いたい、という気持ちが大きかった。
自分が生きている意味を示すために、命を懸けて戦おうと思った。
だが、もし本当に両親が自分を恨んでいたとしたら。
あの夢が真実の声だったとしたら――。
「私は……何のために、ここにいるんだろう」
ぽつりと吐き出した声は、夜気に溶けて誰の耳にも届かない。
ただ、自分自身に問いかけるように繰り返される。
静けさの中、横で斎藤の寝息がかすかに響いていた。
その規則正しい音が、不思議と心を現実へと引き戻してくれる。
ここには夢ではなく、確かな生の気配がある。
そしてその気配は、自分が決して孤独ではないことを告げていた。
霧島は拳を布団の中で握りしめる。
(もう逃げない。ここで答えを出すんだ)
夢は夢だ。
だが、自分が歩むべき道は現実にしかない。
そしてここでは、もう一人ではない。
その決意を胸に刻み直し、霧島はようやく瞼を閉じた。
心地よい疲労が意識を深く沈めていく。
夜明け前の静けさに包まれながら、霧島は次第に深い眠りへと落ちていった。