第3章 信頼
白い靄が辺りを覆っている。
その中に、三つの影が立っていた。
一人は斎藤。剣を手にし、鋭い眼差しを霧島へと向けている。
だがそこには戦場の冷厳さだけでなく、不思議な温もりが宿っていた。
(……守らなければ。この人に認められる自分でなければ)
胸の奥から、熱い決意がこみ上げる。
しかし、その隣にもう二つの影が現れた。
父と母――亡き両親の姿だった。
二人はただ、まっすぐに霧島を見つめている。
「父さん……母さん……」
「……お前のせいだ」
その声は夢の中とは思えぬほど鮮明に響いた。
胸の奥を抉るような響きに、霧島は息を呑む。
「お前さえいなければ、私たちは死なずに済んだ」
次の瞬間、空が赤く燃え上がった。
刀がぶつかる音、絶叫、鮮烈な血の色が視界を覆う。
「お前なんか、死んでしまえ!」
――そこで、霧島ははっと目を覚ました。
夜の静けさ。
隣の布団では斎藤が穏やかな寝息を立てている。
霧島の全身は汗でぐっしょりと濡れていた。
荒い息を殺しながら、夢の余韻を胸に抱きしめる。
(……なんだ、今のは)
胸のざわめきは収まらず、むしろ増していく。
「……嫌な夢だ」
霧島はそっと布団を抜け出した。
そっと襖を開け、廊下に足を踏み出す。
夜気が肌を刺すように冷たい。
だが、その冷たさがむしろ心を落ち着けてくれる気がした。
(……どうしてあんな夢を)
暗い廊下を、霧島は無意識に歩く。
月明かりが障子越しに淡く差し込み、足元をかろうじて照らしていた。
深く息を吸う。
夜の静けさに包まれても、胸のざわめきは消えない。
その時――背後で布団の衣擦れの音がした。
霧島の足が止まる。
「……霧島」
低く落ち着いた声。
振り向けば、襖が半ば開かれ、斎藤が立っていた。
まだ眠気を含んだ瞳が、しかし確かな鋭さを帯びて霧島を見ている。
「どうした。こんな時間に」
霧島は一瞬、言葉を失った。夢の中の声がまだ耳に残っている。
だが斎藤の静かな視線に触れた瞬間、その影は少しだけ薄らいだ。
「……嫌な夢を、見たんです」
思わず零れた言葉に、斎藤は黙って歩み寄る。
廊下の月明かりに浮かぶその姿は、夢の中の幻影とは違う。
確かにここにいる――霧島はそう感じて、胸の奥が少しだけ軽くなった。