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三番隊の剣士【薄桜鬼】

第3章 信頼


廊下に落ちた静けさを破るように、雪村が口を開いた。

「今夜はもう、お休みになりますか?」

霧島は一瞬ためらい、やがて頷く。

「はい。……明日からは、本格的に務めが始まりますから」

「そうですね」

雪村は静かに相槌を打ち、ふと視線を落とした。

蝋燭の明かりに照らされた横顔は淡く影を帯び、霧島の胸に妙なざわめきを呼ぶ。

(……やっぱり、不思議な人だ)

言葉にできない思いを抱えたまま、霧島はただ雪村を見つめていた。
その視線に気づいたのか、雪村が顔を上げる。

「霧島さん」

「は、はい」

「新選組でのお仕事はきっと厳しい場面も多いでしょう。ですが――」

一拍置いて、雪村はやわらかく微笑んだ。

「無理だけは、なさらないでくださいね」

霧島は息を呑んだ。

その言葉が、まるで胸の内を見透かしているようで。

「……そんなにわかりやすいですか?」

苦笑で誤魔化すと、雪村はくすっと笑った。

「ええ」

夜気が二人の間をすり抜けていく。

廊下の先に足音も声もなく、まるで世界に自分たちだけが取り残されたような静けさだった。

霧島はふと胸の奥で何かを言いかけたが――
唇に乗せる前に、飲み込んだ。

代わりに、深く頭を下げる。

「……ありがとうございます、雪村さん」

雪村は一瞬、驚いたように瞬きをした後、穏やかに微笑んだ。

「では、お部屋までご案内しますね」

雪村の先導で廊下を歩く。

夜更けの屯所は、しんと静まり返っていた。

障子の向こうから、時折、刀を研ぐ金属音が細く響いてくる。
それもすぐに途絶え、また静寂が戻る。

やがて雪村は、一枚の障子の前で立ち止まった。

「こちらです。今夜からは斎藤さんと同じお部屋になります」

霧島は思わず息を呑んだ。

「斎藤隊長と……?」

「ええ。斎藤さんのご指示です」

雪村は小さく微笑むと、障子を指先で示した。

「それでは――おやすみなさい、霧島さん」

「……はい。ありがとうございます」

静かに去っていく足音を聞きながら、霧島は障子の前で一度だけ深呼吸をした。
胸の奥に残ったざわめきは、まだ収まりそうになかった。

意を決して戸を開けると――室内に斎藤の姿はまだなかった。

小さな机が一つと布団が二組。

(……まだ宴の席か)

安堵とともに息をつき、霧島は奥の布団に身を横たえた。
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