第3章 信頼
大勢の新選組隊士が使用している割に、浴室はこじんまりとした作りだった。
木の桶がいくつも並び、石床に滴る湯気が白く立ちこめている。
桐島はそっと湯に身を沈めた。
熱が肌を包み込み、全身の疲れがじわりと溶け出していくようだった。
ふう、と長い息がもれる。
(……酔いは冷めたか?今日は休め……)
斎藤の低い声が耳の奥で蘇る。
戦場で何度も見た厳しい眼差しとは違い、そこには確かな気遣いがあった。
(雪村さんに聞け、か……)
その一言を思い返すと、妙に胸がざわついた。
浴場の湯気に紛れて、心まで熱が上がる。
――あれはただの指示か、それとも。
桐島は思わず湯の中で拳を握る。
自分でも理由のわからない感情が、身体の奥から浮かび上がっていた。
***
湯から上がると、夜の空気が肌に心地よかった。
火照った体を冷ましながら戸を開けると、入り口に雪村の姿があった。
「霧島さん」
雪村が小さく手を挙げる。
灯りに照らされる横顔は、いつもより柔らかく見える。
「待っていてくださったんですか?」
「はい、念の為に。気持ちよかったですか?」
「……ええ。だいぶ楽になりました」
霧島はそう答えながら、どこか目を逸らした。
胸の奥で、言葉にならない熱がまだ収まっていない。
雪村はそんな霧島を見て、ふっと笑みをこぼした。
「ここでは、身体を休めることが一番です。……戦うのは、その後でもできますから」
その言葉に霧島は思わず顔を上げた。
雪村の声音は冗談めいているのに、底には真剣な響きがあった。
それはまるで――自分の無理を見透かしているかのようで。
「……雪村さんって、不思議ですね」
「え?」
「なんというか……すごく落ち着くんです」
霧島は照れ隠しのように笑ってみせた。
雪村は少し驚いたように目を瞬かせたが、やがて柔らかな笑みを返した。
「それなら、よかった」
廊下にしばし沈黙が落ちる。