第2章 承認
霧島は胸の奥に溜まっていた息を、そっと吐き出す。
「……不思議です」
自分でも意外な言葉が、ふと口をついて出る。
斎藤がわずかに眉を動かした。
「何がだ」
「こうして斎藤隊長と話していると……心が少し軽くなるのです。
自分が剣を執った理由を、認めてもらえたからでしょうか」
それは酒の勢いだけではなかった。幹部たちの前では多くを語れずに飲み込んできた言葉が、今になって胸の奥からあふれ出したのだ。
親を失い、復讐のために剣を取った――その動機は正解だったのか。
自問自答を繰り返している自分がいた。
だが、斎藤は否定しなかった。
ただ事実を受け止め、言葉を返してくれた。
それが霧島には、何よりも救いだった。
斎藤は腕を組み、視線を夜空に外した。
「俺は事実を言っただけだ。どう受け取るかは、あんたの勝手だ」
言葉は冷ややかで、突き放すようにも聞こえる。
だが、そこには刃のような鋭さはなかった。
むしろ、淡々とした口調の奥に、ひとすじの温もりが潜んでいるように思えた。
霧島は口の端をわずかに上げた。
「……ありがとうございます」
そう言って笑みを浮かべたとき、斎藤は一瞬だけ目を細めた。
その仕草は、月の光を映した刃のように鋭く、しかし確かに柔らかさを帯びていた。
彼が心の奥で何を思ったのか、霧島には分からない。
けれども、その目にほんのわずかでも情が灯ったことは、見間違いではないと感じた。
再び、涼しい風が二人の間を吹き抜けた。
宴のざわめきが遠のいていく。
霧島は黙って月を仰ぎ、斎藤もまた視線を空へと戻した。
言葉は少なくとも、そこには確かなものが生まれつつあった。
互いに多くを明かしたわけではない。
だが――理由も分からぬまま、不思議と心が通じ合った気がした。
霧島は思う。
ここでなら、自分は孤独ではないのかもしれない。
その確信めいた思いが胸に広がり、やがて静かな信頼の芽となって根を下ろし始めていた。