第11章 微光
沖田になんと声をかければ良いのか分からず、無言のまま屯所まで戻る。
「霧島君、付き合ってくれてありがとう。みんなには内緒にしといてね」
沖田は既にの涼しい顔に戻っていて、屯所の奥へと消えていった。
その背中を見送る霧島の胸に、どうしようもない痛みが走る。
――沖田の命は、そう長くはないだろう。
彼は、いつまで新選組の剣で居続けられるのだろうか。
いつまで近藤や土方、新選組隊士たちと過ごせるのだろうか。
残酷な結末が頭をよぎる。
その想像を頭を振って無理やり消し去った。
霧島は自室へ戻る途中、縁側に座る人影を見つけた。
薄青い羽織をまとい、静かに書を閉じたのは山南だった。
障子越しに射し込む昼の光が、彼の横顔をやわらかく縁取っている。
「霧島君、沖田君と一緒だったようですね」
その声は穏やかで、どこかすべてを見通すような柔らかさを帯びていた。
「はい……少し、買い出しに出ておりました」
「そうですか。彼は、どうでしたか?」
質問の意図が分からず、霧島は言葉に詰まる。
「……元気そうでしたよ」
山南は目を細め、小さく頷いた。
「そうですか、やはり」
山南が何を察したのか分からなかったが、彼は懐から小さな瓶を取り出す。
光を受けて、赤くきらめく液体が揺れた。
「彼に、これを渡してくれませんか」
「これは……?」
「変若水です。命を長らえさせる――もっとも、代償も伴うものですが」
霧島は息を呑んだ。
山南は目を伏せ、静かに微笑む。
「彼は病を患っているのでしょう?」
「なぜそれを…」
「あなたの言葉と表情を見ていれば、大方察しはつきました。剣を捨てるか剣に生きるか、選ぶのは彼自身です」
その言葉には、決意と哀しみが入り混じっていた。
霧島は瓶を受け取り、しばしその中の液体を見つめる。
淡く光るそれは、美しい――けれど、どこか人の手にしてはいけないような冷たさを孕んでいた。
変若水の禍々しいほどの輝きは、血の色にも、命の色にも見えた。
――渡すべきか、それとも、渡してはいけないのか。
胸の奥で、答えの出ない問いが渦を巻いていた。