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三番隊の剣士【薄桜鬼】

第11章 微光


茶屋を出ると、昼下がりの陽が柔らかく街を照らしていた。
遠くで子どもたちの笑い声が聞こえ、商人の声が響く。
そんな穏やかな空気の中を、霧島と沖田は並んで歩いていた。

「さっきの団子、美味しかったね」

沖田が微笑む。

「本当に。あんなに嬉しそうに食べる沖田さん、久しぶりに見ました」

「うん……なんだかね、最近こうやって外を歩くのが少なくなってたから。今日みたいな日があると、嬉しくなるんだ」

その声には、いつもの柔らかさと共に、かすかな疲れが混じっていた。
霧島はその変化を感じながらも、何も言わなかった。
ただ、彼の横顔を目に焼きつけるように見つめていた。

屯所まで、あと半刻ほどの道のり。
日差しが傾き始め、石畳の上に木々の影がまだらに落ちる。

その時だった。

「……っ、ゴホッ……ゴホッ!」

突然、激しい咳き込みが空気を裂いた。
霧島は驚き、すぐに沖田の肩を支える。

「沖田さん!?」

「……だいじょ……ぶ……」

そう言いながらも、彼の体は小刻みに震えていた。
咳は止まらず、背を丸め、苦しげに胸を押さえる。
やがて彼は懐から手拭いを取り出し、口元を覆った。

咳が落ち着くまで、ほんの数十秒。
だが霧島には、その一瞬が永遠にも思えた。

沖田が手拭いを下ろした瞬間――
白地に、鮮やかな赤が滲んでいた。

陽の光に照らされて、その血はやけに鮮やかだった。
昼間の明るさの中で、それはまるで“現実ではない”何かのように、霧島の目には映った。

「……見られちゃった、か」

沖田が、少し照れたように笑った。
まるで、服の汚れを見られた程度の気軽さで。

「沖田さん……それ……まさか……」

霧島の声が震える。
胸の奥が冷たくなり、心臓の鼓動が遅れて響く。
口に出した瞬間、すべてが崩れてしまいそうで、言葉が続かない。

頭によぎったのは、不治の病の名前。

沖田は、静かに目を伏せた。

「……ただの風邪だから大丈夫。皆には内緒にしてて。心配かけたくないんだ」

「でも……!」

「大丈夫」

彼はそう言いながら、手拭いを丁寧に折りたたんで懐に戻す。
その仕草が妙にゆっくりで、胸が締めつけられる。

「まだ剣は握れる。まだ……戦えるから」

その声は静かだった。
だが、どこか自分に言い聞かせるようでもあった。
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