第10章 襲撃
「霧島」
土方の低く重い声が、夜気の残る土間に響いた。
その声音はいつもの冷徹さを湛えてはいたが、ただ厳しいだけではなく、確かな現実を突きつけるものだった。
「今後は警戒を強める。お前も奴らを警戒しておけ」
鋭い眼差しが霧島に向けられる。
その視線は、試すようでもあり、同時に仲間としての責任を背負わせるものでもあった。
霧島は思わず背筋を伸ばす。
脇腹の痛みがじわりと蘇るが、それ以上に心が引き締まる。
今、ここにこうして生きていること自体、ある意味で奇跡に近い。
だが――その奇跡が続く保証など、どこにもないのだ。
「お前がどうしたいかは自由だ」
土方はゆっくりと続ける。
「だが、隊としてはお前も守るべき存在だ。それを忘れるな」
「守るべき存在…」
霧島は思わず繰り返す。
「勘違いすんなよ」
その口調には一切の甘さはなかった。
「お前を女として特別扱いしてるからじゃねぇ。先も言ったが、隊に属する以上、命は誰のもんでもねぇ。俺達が背負ってるのは“新選組”って名前だ。それを忘れるな」
その言葉は重く胸に響いた。
霧島は唇を噛む。
これまで剣を振るう資格を得るため、ただ男のように戦うことを目指してきた。
だが、土方の言葉はその思いを根底から覆す。
――女だから守られるのではない。
――仲間だから守られる。
その単純で力強い事実に、胸の奥が熱くなった。
霧島は深く息を吸い、まっすぐに土方を見据える。
そして、静かに、しかし力強く頷いた。
「……ありがとうございます、副長。私も隊士の一人として、最後まで戦い抜きます」
「あぁ、頼む」
原田が肩をすくめて笑い、斎藤は細めた瞳で霧島を見守る。
土方は一切笑わなかったが、それでもどこか安堵をにじませたような気配があった。
永倉はごろりと土間に寝転がり、鼻を鳴らした。
「それにしても、霧島が女だったとはなあ」
永倉が大きなため息をつくように言う。
「斎藤、お前は気づいてたのか?」
「あぁ」
「いいのかよ、副長に隠し事して」
「霧島が自分の口で話せるようになってからが良いと判断したのだ。……だが確かに俺にも責さある。副長、必要とあらば腹を切ります故」
「おい、新八。斎藤が本気にするからやめろ」
土方の眼光が鋭くなるが、永倉は楽しそうに声を上げて笑った。