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三番隊の剣士【薄桜鬼】

第10章 襲撃


霧島の瞳に宿る真っ直ぐな光を見て、土方はわずかに口元を緩めた。

それは嘲笑でも侮りでもない、戦う者の覚悟を認めた者だけが浮かべる微かな笑みだった。

「……お前の覚悟、確かに受け取った。最期まで、新選組の一人として戦い抜け」

短く放たれたその言葉は、武士としての信義に基づいた承認であった。

「はい」

霧島の返答は力強くも澄んでいて、その声が土間に響いた瞬間、張り詰めていた空気がわずかにほどけた。
重苦しい緊張は消えないまでも、そこには確かに連帯の息が流れていた。

「俺たちからも話しておかなきゃならねぇ事がある」

土方の声は低く、だが確かに皆に届く響きを持っていた。
霧島は瞬きをしながら問い返す。

「……鬼のことですか」

「そうだ」土方は頷き、背後へ目をやる。

「雪村、入れ」

静かな足音が土間に近づき、雪村が姿を現した。
白い肌に凛とした気配を纏いながらも、その歩みはどこかためらいを含んでいる。

「霧島にも、お前の事情を知っておいてもらおうと思う。構わないか」

「……はい」

雪村は短く答え、視線を落とした。
そこで土方が淡々と告げた。

「今、風間達はこいつをが狙っている。彼女を嫁に娶るためだ」

「……嫁?」

霧島は息を呑み、思わず言葉を返した。

「嫁、と言いましたか?」

雪村は小さく微笑んだ。
どこか寂しげで、しかし嘘のない笑みだった。

「はい。……私も女なんです、霧島さん」

「え……」

霧島の胸がぐらりと揺らぐ。

思い返せば、入隊したばかりの頃。雪村の立ち居振る舞いに、どこか柔らかな違和感を覚えたことがあった。

そして、風呂や寝所に関しても気を遣ってくれていた。

――まさか、自分と同じように、女でありながらこの隊に身を置いていたとは。

「新選組で保護している以上、こいつを鬼に渡すわけにはいかねえ」

土方の声は静かだが、そこに含まれる決意は鋼のように固かった。
霧島は肩で小さく息をし、問い返す。

「鬼とは、一体……」

雪村がゆっくりと顔を上げる。

「……人間離れした身体能力と、治癒力を持つ者。あの三人がそうだ」

霧島は息を呑んだ。

鬼――それは幼いころに聞いた御伽噺や怪談の中でしか語られない、絵空事の存在だと思っていた。だが、つい先ほど自ら刀を交えた相手こそが、その“鬼”だというのか。
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