第10章 襲撃
二条城の警護を終え、夜明け前の冷たい空気が街を覆っていた。
屯所に戻った一行は、刀を納めるや否や、自然と土間へと集まった。
誰もが疲労困憊のはずなのに、瞳だけはぎらついて冴えている。
土間に沈む静寂を破ったのは、土方の低い声だった。
「……霧島。お前から話してもらおうか。不知火が、はっきりと“女”だと言っていたな」
隊士たちの視線が一斉に霧島へと注がれる。
重苦しい空気の中、霧島は膝に置いた拳をぎゅっと握りしめ、言葉を探すように唇を噛んだ。やがて小さく頷き、静かに口を開いた。
「……はい。私は、女です」
その告白に、わずかなざわめきが広がった。
永倉は驚きに目を見張り、原田は「やっぱりか」と苦笑を漏らす。
斎藤だけは、無言のままじっと霧島を見つめていた。
「なぜ隠していた」
土方の声は氷のように冷たい。
問い質すというより、逃げ道を許さぬ詰問の響きがあった。
霧島は脇腹の痛みに顔をしかめながらも、背筋を伸ばして皆を見渡した。
「……私の両親は、不逞浪士に殺されました。私は女の身ではありますが、復讐のために剣を取りました。どうしても……不逞の輩を斬りたかった。そのために、新選組に入ったのです」
その声には震えはなく、強い意志だけが宿っていた。
だが土方は眉ひとつ動かさず、低く言い放った。
「確かに、入隊の時もそう言っていたな。だが――女だということを隠していた理由にはなってねぇな」
霧島は一度目を伏せ、吐息を漏らすように言葉を続ける。
「女だと知られれば……剣を振るわせてもらえないと思ったからです」
一瞬の沈黙。
だがその後に続けた声は、胸の奥を吐き出すように強かった。
「きっと皆さんは、私が女だと知れば、私を守ろうとするでしょう。でも私は、守られるだけの存在でいたくない。誰かの背中に隠れているのではなく、自分の手で剣を握り、共に戦いたかったんです」
土方の鋭い眼光が霧島を射抜き、その場の空気をさらに張り詰めさせた。
「……いいか、霧島。隊の一員である以上、俺達は命を預かってるんだ。男でも女でも、仲間だから俺たちは守る。そこを履き違えるな」
土方の言葉に霧島は息を呑んだ。
胸の奥に突き刺さる叱責――。しかしそれは、拒絶ではなく、仲間としての厳しさに他ならなかった。
霧島は深く頭を下げ、静かに告げる。
「……承知しました」
