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三番隊の剣士【薄桜鬼】

第10章 襲撃


顔を上げた瞬間、闇の中に三つの影が立っていた。
夜気を裂くように漂うその気配だけで、空気が一気に張り詰める。

霧島はそのうちの一人を見て、胸の鼓動が跳ね上がる。
月明かりに浮かぶ艶めいた笑み、手には黒光りする拳銃――。

「……お前は、池田屋の!」

「おう、覚えていやがったか。女の身でありながら、まだ新撰組にしがみついて剣を振るってんのかよ」

その名は、不知火匡。
霧島の記憶に刻まれた悪夢と共に、彼の姿が脳裏に鮮明によみがえる。

「……っ」

霧島は息を呑み、無意識に刀の鞘へ手を添えていた。
そのとき、冷ややかな声が闇を裂く。

「不知火。用があるのは幕府の犬共では無かろう」

金髪長身の男が、静かに周囲を見渡す。
鋭い眼差しは、戦場における獲物を探す獣のそれだった。

「悪いな、風間」

不知火は肩をすくめ、にやりと笑う。

「ちょっと見知った奴が居てよ」

その視線が霧島を舐めるように追い、値踏みする。

池田屋で浴びた血の匂いと、仲間の倒れる音が脳裏に響き渡る。
忘れたいのに、決して消えない記憶。背筋を冷たいものが走り、手がかすかに震えた。

「霧島」

鋭くも落ち着いた声が横から届く。斎藤だった。

その一言に込められた気遣いを感じ、霧島ははっと息を整え、彼の視線を受け止める。

深く頷き、恐怖を胸の奥に押し込んだ。

「女鬼はどこだ」

風間と呼ばれた男が低く問いかける。
その声音は探すというより、狩りの宣告に近かった。

返答を避けるように、永倉が一歩前へ出る。
手はすでに刀の柄にかかっていた。

「ちっ……よりにもよって今夜かよ。厄介な連中が顔を出しやがったな」

永倉が吐き捨てるように言う。

「答える気はない、というわけか」

風間が口の端を吊り上げた。
声音には戦いを愉しむ余裕と、相手を見下す挑発が色濃く滲む。

「風間。ここで無駄な争いは避けるべきではありませんか」

低く諫めたのは、背後に控える巨漢だった。
堂々たる体躯に似合わぬ落ち着いた声音。

「俺に指図するか、天霧」

鋭く睨み据える風間に、天霧と呼ばれた男は恭しく一礼する。

「……失礼いたしました」
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