第10章 襲撃
御陵衛士に対する夜襲は、のちに油小路事件として語り継がれることとなった。
その同年12月、朝廷より王政復古の大号令が発せられ、旧幕府軍は一気に立場を失い、時代の大きな転換点を迎える。
その頃、新撰組には二条城の警護が命じられ、その場に霧島もまた立ち会っていた。
「なあ、霧島。これから先、俺たちはどうなっていくんだろうな」
永倉は空を仰ぎ、白い息を夜空へ吐きながら、ぽつりと声を落とす。
冬の冷気は鋭く肌を刺し、遠くに見える二条城の瓦屋根が月明かりに静かに照らされている。
霧島はその横顔を見つめ、かすかに笑みを浮かべた。
「……どうなっていくんでしょうね。でも、みなさんと一緒なら、どんな先でも怖くありません」
永倉は短く鼻を鳴らし、腕を組む。
「お前は肝が据わってるな。こんな状況で、ここにいるってだけでも並の覚悟じゃねえのに」
霧島は静かに首を振った。
「私はもう、十分に幸せな毎日を過ごせましたから」
そう長くはなかった――けれど、新撰組で過ごした日々。
斎藤と心を通わせたこと。
仲間と肩を並べ、笑い合い、共に剣を握った時間は、どんな未来よりも愛おしいものだった。
「なんだよ、湿っぽい話はやめろよな」
原田が大きな肩を揺らして笑う。
「霧島にそんなこと言わせるなんてよ、新八、てめえが一番らしくねえぜ」
「うるせえ。俺はただ聞いただけだ」
永倉が苦笑混じりに返すと、すぐ横で斎藤が低い声で口を開いた。
「……警護に集中しろ」
その言葉に、場の空気が一瞬引き締まる。
霧島は斎藤の横顔を盗み見て、小さく息を吸い込んだ。
「ふっ。相変わらず真面目だな、斎藤」
原田は肩をすくめ、刀の柄に軽く手を置いた。
その時、後ろから静かな足音が近づいてきた。
「お前ら、気を抜くな」
声の主は土方だった。黒い羽織の裾を翻し、月明かりを背に立つその姿は威圧感に満ちている。
「副長」
斎藤が短く頭を下げる。
「……どうなるかは誰にもわからねえ。だがな、俺たちは俺たちの務めを果たすだけだ。ここで踏ん張れなきゃ、新選組の名が泣く」
土方の鋭い眼差しに、全員の表情が引き締まった。
霧島も背筋を正し、胸の奥に熱いものが広がる。
「はい」
その瞬間――。
突如、夜風がざわりと吹き抜けた。冷たい空気が頬を打ち、緊張が全身を駆け抜ける。