第9章 嗜血
その言葉に、霧島は息を詰めた。
確かにそうだ。――あの赤い目の奥に宿っていたのは、ただの狂気ではない。必死に抗おうとする意志を感じ取ったのだ。
畳に落ちる陽の光が、二人の間を静かに隔てている。
霧島は膝の上に拳を置き、その震えを必死に押し殺した。
「……承知しました」
声はわずかに揺れていたが、その芯には確かな決意が宿っていた。
霧島は深く頭を下げ、静かに部屋を辞した。
そしてそのまま真っ直ぐに、藤堂の部屋へと向かう。
霧島は襖を静かに開けた。
部屋の中央、布団の上に藤堂が上体を起こし、その傍らには斎藤が控えていた。まだ顔色は青白く、額には汗がにじんでいる。
「斎藤隊長……藤堂さん」
声をかけると、斎藤がゆるやかに顔を上げる。
「霧島、……腕は、大丈夫か」
霧島はうなずいた。
「はい。もう心配いりません」
それを聞いた藤堂が、苦悶の表情を浮かべる。
「霧島……ごめんな。俺のせいで怪我をさせちまった」
「いえ、私の未熟さが招いたことです」
霧島は穏やかに首を振り、藤堂の言葉を遮るように答えた。
だが藤堂は小さく首を振り返す。
「違うんだ……。あの時、止められなかった。気がついたら、お前に牙を……」
その声はかすれ、肩が小さく震える。罪悪感が全身からにじみ出ていた。
霧島はしばし黙し、やがて静かに口を開く。
「……副長から伺いました。実験のこと、羅刹のことも」
その一言に、藤堂は目を大きく見開き、次いで苦しげに視線を落とした。
「じゃあ……全部知っちまったんだな」
「はい」霧島は迷いなくうなずく。
「だからこそ、わかりました。あの時、藤堂さんはただ暴れていたわけではない。あの赤い目の奥で、必死に抗おうとしていた……私はそれを確かに感じました」
藤堂の瞳が揺れる。唇が震え、押し出すように言葉が漏れた。
「……でも、俺はもう人間じゃない。化け物になっちまったんだ」
その呟きに、霧島はきっぱりと首を振った。
「どんな姿になろうとも……私にとって藤堂さんは藤堂さんのままです」
部屋の空気が、深い静寂に沈む。
斎藤はそのやり取りを黙って見つめていた。
仲間を想う情と、それゆえの苦悩――その眼差しには、言葉にできぬ葛藤が宿っていた。