• テキストサイズ

讃歌永るる砂時計【リヴァイ】【男主】

第3章 砂時計は返された




「……煙管に料理に、お前は煙に巻かれてねぇと気がすまねぇのか?」

「おっと。気が付かなかったよ。いらっしゃい」

 竈からクッキーを取り出していたとき、兵士長殿の呆れた声が聞こえてきた。惜しいことをした。今回は砂時計をひっくり返し損ねてしまったようだ。この悔いはこれで晴らすより他あるまい。そう思いながら手元に視線を落とす。

「クッキーを焼いたんだ。紅茶のお供にと思ってね。どうだい?」

「……悪くない」

 焼き立てて湯気の立ち上るクッキーの姿に、兵士長殿は表情を変えることなく頷いた。







 砂時計をひっくり返す。
 温かいうちに食べようといそいそと庭に出たために、紅茶を蒸らす時間がいっとう長く感じられる。砂が落ちきるや否やティーポットを手にしたおれを見て、兵士長殿がは、と笑った。

「そんなに温かいクッキーを食わせてぇか」

「当たり前だろう、自信作だ」

 おまえに捧げると、決めたのだから。

 早々に紅茶を注ぎ、椅子に腰掛ける。クッキーを口にした彼の姿を幾つか頭に浮かべながら、おれは皿を兵士長殿に差し出した。

 兵士長殿がクッキーを一口食べたのを見届けて、おれもまたクッキーをかじる。しっとりとした口触りのあと、クッキーがいくつかの粒になってほろほろと舌の上を転がった。

「我ながら上出来だ」

 クッキーが紅茶に溶けてゆく感覚が心地良い。寒さが深まってきたこの中で飲食する温かいものというのも、また心を満たす。

「生焼けじゃねぇのか」

 感嘆の息を漏らしたおれを見て、兵士長殿がまた微かに笑う。揶揄うかのように。

「心外だな、そういう食感を目指して焼いたものだよ」

 茶目っ気を込めて片目を閉じれば、兵士長殿はわざとらしく顔を顰めてみせた。嫌悪感から来るものではない、じゃれあいのような、そんな空気。
 満足感に駆られて空を仰げば、雲間から眩い光がひとすじ。

 空を見ていたのは、彼も同じらしい。

/ 14ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp