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讃歌永るる砂時計【リヴァイ】【男主】

第2章 美醜は覆る



 秋の終わりの、白に近い空の色。
 雲ひとつない空に向けて、煙を吐き出した。この大空に雲をひとつ作り出した偉大な人物になったかのような気分になる。

 そして、おれはつくづく思うのだ。調査兵団の兵士長。まして一個旅団並みの戦力。挙げ句の果てには人類最強とまで謳われる彼の謙虚さたるや。

 砂時計をひっくり返す。
 調査兵団への多額の支援と引き換えに兵士長殿と定期的にお茶をする。そう約束を取り付けてから早くも一ヶ月。
 兵士長殿がやってくるまでの時間をこうして計ってみると、実に面白いことがある。これがまたぴったりと、毎度律儀に同じ時間にやってくるのだ。そのことがまた、おれに兵士長殿を渇望させた。
 あと一回。あと一回砂が落ちれば、彼はやってくる。  
 早く砂が落ちきってくれやしまいか。そんなことすら願うのである。枝の一番先に残った、唯一常磐色をした葉。冬の鋭さをまとった風にひらひらと吹かれてもなお枝について生き続ける様は、どこかおれの求めているあの兵士長の姿と重なるようだった。

──さらり。砂時計の、最後のひと粒が落ちる。

「枯葉に埋もれて見つけられねぇところだった」








 砂時計をひっくり返す。
 そうして椅子に座ると、同じく椅子に座っていた彼が口を開いた。眉根を寄せて、不機嫌を煮詰めたような顔をして。

「書類仕事でてんてこ舞いだってのに資金のせいで物好きの物書きの元に行かねぇといけねぇのがつくづく腹立たしいが……今日は何を話そうってんだ」

 ひとつ一つに棘を孕んだ口調。ちくちくとした空気は冬を思わせた。
 知りたい。彼の棘の取れる瞬間が。彼が何を美しいと思うのか。 むくりと湧いて出た溶岩のような欲望に、おれは前のめりになる。

「おまえは……何を美しいと思う?」

「……は?」

 兵士長殿は、少しばかり呆然としたような表情で、こちらを見つめた。見開かれた目に宿す感情が驚きから侮蔑へと変わる階調を、おれは目に焼き付けていた。

「この情勢でそんな哲学対話に耽ってようってなら、お前は相当良い生活をしてるらしい」

 搾り出されたそれは、 皮肉と軽蔑でできた弓矢のようだった。
 
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