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讃歌永るる砂時計【リヴァイ】【男主】

第1章 流れる砂に彩りを


「良い眺めだ」

 盆を手に庭へと続く窓を開けた時、兵士長殿が呟くのを聞いた。

「そうだろう?」

 彼はただ独りごちただけのつもりであったのだろう。目に少しばかりの驚きを滲ませ目を見開いた。そして、彼は独り言を拾い上げ侵入者の真似事をしたおれに、彼は冷ややかな目線を送った。

「春になれば百花繚乱、光柔らかに極楽のような心地がするものだが……色の褪せつつあるこの季節の庭もまた一興」

 朽葉の掃除に骨が折れるがね。そう言って、庭に設置していた錬鉄製のテーブルセットに人数分のティーカップとソーサーを置く。温めておいたティーポットに茶葉を入れ、湯を注いでから砂時計をひっくり返した。

 
 茶葉を蒸らしている間に、おれは庭に向けて手を広げた。
 黒く目に映る枝々。その枝から離れるか否かの境界線を風に彷徨わせられる葉。突き抜けるような青空と裏腹にすべてに少しずつ茶色の混じった低い彩度の風景は、始と終とを同時に感じさせる。まるで、彼らの生きる世界のように。

 兵士長は一体どんな世界を生きているのか。大きく息を吸う。肺に溜まるのは澄んだ秋晴れのみ。息を吸い込みすぎたのだろう。咳き込んだ瞬間、砂時計の砂が茶葉の蒸らし時間の終わりを告げた。

 支援だの人類への貢献だのと、おれは彼らと堅苦しい話をしたいわけではない。自由の翼の如き巻雲の下で紅茶を嗜む、なんと優雅なことだろうか。

 安寧。そんな言葉が浮かぶ。

 生と死の狭間を生きる彼らにその時間を提供したことへの満足感と、心地良い秋の風に吹かれ、天使にでもなったかのように身体が軽い。

 こんな時間も悪くないだろう。

 そう言いかけたはずの言葉が、口の中で溶けて消えた。兵士長の異様なティーカップの持ち方に目を奪われたからだ。
 潔癖の性を持ちながらもその理性で不平不満を口にすることなく屋敷に足を踏み入れた彼の、譲れぬ所作。底知れぬ沼のような聖域に、おれは目が離せなかったのだ。

「……何だ、あんたは」

 しばらくの間は何も気にすることなく紅茶を啜っていた彼だが、あまりにもおれが彼に魅入っていたからか、紅茶を飲むことをやめてしまった。

 
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