第4章 讃歌永るる砂時計
ペン先が紙を、命を、削っている。おれの隣には、さらさらと砂の流れる砂時計がひとつ。
意識しなければ、瞬きさえ忘れてしまう。それでも書く。原稿用紙を引き裂くかの如く、刻みつける。
身体が熱い。窓を開け放つと、木枯らしが吹き付けた。風花が舞っている。それでも、それらはおれの身体を冷やすに及ばなかった。身体の芯が燃えているようだ。燃え尽きる前に書かねばならない。吐き出した血液が原稿用紙を叩きつける。彼の求むる安寧を、彼の見えない彩りを、おれが創るのだ。書け。鼓舞するより先に手が動く。
花の萌芽する喜び、夜露に濡れた芝を踏む心地好いこと、道端に咲いたアザミの棘、毎秒姿を変える空模様に、無限の想像を秘める雲の形、高い壁に切り取られてもなお雄大な大空、琥珀色をした香りと風味の豊かな紅茶。ああそうだ。この風花も書こう。木枯らしの鋭さも、蝋燭が溶けゆく様子も、全部全部全部。おれが書く。書かねばならない。書きたい。インクが散る。黒の滲んだおどろおどろしい字から、世界が浮かび上がってくる。彼の見ることの叶わない世界が。
「血に塗れた世界を、おれが彩りたい」
インクと血が混じる。形作られた赤黒い点は、赤色の星々のようだった。まるでおれのようだ。もうすぐ死ぬ。それでも輝く、おれのようだ。
おまえのために言葉を紡ぐ今こそ、おれは一番に輝いている。ろうそくの光を受けて、砂時計の砂ひと粒ひと粒がきらきらと輝いた。
おまえがいつか、実際にその淡い青の瞳で彩りを目にする日を願って。
この物語を、おまえに託そう。