第3章 砂時計は返された
椅子に座り直すと、兵士長殿は怒りを露わに声を荒げた。
「文字なんか書いてる場合か。医者に行くぞ。馬車を捕まえる」
兵士長殿が、おれのことを椅子からひきずり降ろそうとする。
「いや、いい。構うな」
おれの腕を掴んだ彼の手を払う。
──分かりきっていたことだ。よもや血まで吐くとは思わなかったが。
その言葉に、彼は愕然として手を降ろした。
おまえはそんな顔もできるのか。愛おしいな。
砂時計の砂が落ちる時間よりも短い間で、二つもおまえの新たな顔を知れた。そう思えば、吐血もまた執筆の材料であった。
砂時計をひっくり返す。
そうしなければ、没頭して時間を忘れてしまうのだ。
尤も、一度集中してしまうと砂時計なんかに目もくれなくなるから、意味なんてないのだが。
そう言って、砂時計はひっくり返された。