第2章 彼女の理由
あの麻薬密売組織を制圧してから、3日が経とうとしていた。
私は捜査一課の応援に入ったままで、公安に顔を出せずにいた。
立て続けに起きる事件の対応に追われて、ようやく3日ぶりに出勤することができた。
公安のフロアに入った瞬間、薄暗く重たい空気が私を迎える。
全体的に疲れ切った気配が漂っていて、唯一出迎えてくれたのは、眼鏡にスーツ姿のヨロヨロとやつれた風見さんだった。
「おはようございます、華守さん……」
「おはようございます、風見さん。……って、最後に寝たの、いつですか?眼鏡が曲がってますよ」
「……記憶が正しければ……3日前、ですかね……」
眼鏡のフレームを押し上げながら、どこか遠くを見つめる風見さん。
目の下には見事なくま…顔色も悪いし完全に限界が来ている。
「……(降谷さんにこき使われたんだろうな…)」
私は華守陽菜。
警察庁警備局警備企画課、通称“ゼロ”所属の公安警察官。
裏では潜入捜査官の管理や情報収集を行い、表向きは捜査一課の刑事として活動している。
ここ数日、捜査一課の任務が忙しく公安には顔を出せていなかった。
ようやく戻ってきた職場を見渡すと、風見さんだけでなく、他のメンバーもみな、疲弊していた。
そんな中で、私をみたメンバーから歓声が上がった。
「華守さんだ~!!俺たちの癒しが、やっと来てくれた~~!!」
「皆さん、お疲れ様です…。すみません、一課の対応が長引いてしまい、来るのが遅くなりました…。たまってる仕事、こっちにも回してください!」
わーっと集まってくる半泣きの隊員たち。
しかし、次の瞬間。背筋にぞわりとした冷気が走った。
……殺気。しかも、すごく分かりやすいやつ。
「おい、お前ら……仕事も終わってないのに、よくそんなにはしゃげるな。もっと量増やすか?」
ぴたり、と場の空気が凍りつく。
現れたのは、もちろん降谷さん。
明らかに機嫌が悪いその顔に、全員が同時に目を逸らした。