第8章 憧れの先輩
「先輩のこと、好きなんです、ずっと」
小声で告げた図書室の隅。
誰もいない時間帯の、ちょっとほこりっぽい空気。
彼は本を閉じて、ゆっくりとこちらを向いた。
「……さん、俺に期待しない方がいい」
無表情のままそう言われて、思わず目を伏せた。
先輩は学校一優秀で、かっこよくて、落ち着いてて。
……こんな完璧な人、わたしに届きっこない。
「そう、ですよね……」
震える語尾で絞り出すと、彼はゆっくりと立ち上がった。
ためらいがちに伸びてきた手が、わたしの顎をすくう。
「せ、せんぱ……」
「泣かれるのは困るから。……少しだけ、ね」
彫刻みたいに整った先輩の顔が近づいて、そのまま唇が重なる。
初めて近くに感じる先輩の匂いに、胸がきゅっと締めつけられた。
「……このこと、忘れなよ」
fin.