第5章 不器用な先輩
「……は?おまえ、マジで……バカじゃねぇの」
「バカかもしれないです。でも、本気で好きなんです」
夕暮れの自転車置き場。
バイト終わりに、逃げないで向き合ったつもりだった。
でも、先輩はあきれたようにため息をついた。
「……ったく、オレなんかに何期待してんだよ」
赤くなった耳と、わたしを見ようとしない視線。
少し困ったその表情すらも、かっこいいなぁ、とか思ったりして。
「……ムリだよ。付き合うとか、そういうの考えてねーし」
わたしが俯いて黙っていると、ふいに顔をぐっと近づけられた。
「……キスぐらいなら、してもいいけど?」
「……え?」
「オレだって、バカな子に好かれるの……嬉しくないわけじゃねーし」
照れ隠しみたいなキス。
それはまばたきくらい一瞬のことで、驚いてる間に背中をぽんと叩かれた。
「……もう、帰れよ」
fin.