第44章 『好奇心×力』藤堂平助編
「ねぇ、平助くんって、どれくらい力あるの?」
いつものように、屯所の庭先で話していたある日の夕方。
平助くんはちょこんと腰掛けた石の上で、まぶしそうに空を見上げていた。
「……え?力?うーん、どうだろ。普通くらい……?」
「え~、結構あるでしょ!剣も強いし、体だってわたしより大きいし……」
「まぁ……ももかちゃんと比べたら、あるかもね?」
平助くんは笑って答えながらも、どこか困ったように首をかしげた。
わたしはその表情をじっと見つめて、ふと、いたずら心が湧いてくる。
「じゃあさ……ちょっと、抑えてみて?」
「え……」
「全力で逃げても、平助くんがちゃんと抑え込めるか、確かめてみたい」
「ちょっ……ももかちゃん、それって……本気?」
「うんっ」
少しだけ困った顔をした彼は、しばらく黙って考え込んでいたけど――
やがて、すぅっと瞳の奥が変わる。
「……わかった」
その声は、いつもの可愛らしさとは違う、真剣な声だった。
「逃げてもいいよ。でも……俺が捕まえたら、どうなるかわかってる?」
「……えっ」
「ももかちゃん、俺のこと"いつも優しい"って思ってるでしょ?」
彼が立ち上がる。
その瞳がまっすぐに、わたしだけを見つめていた。
「今日は……ちょっとだけ"優しくない俺"も教えてあげる」
──ほんの数十秒後。
少し離れたところから「よーいどん」の合図で逃げ出したわたしは、あっという間に背中を抱きすくめられていた。
「きゃっ……!」
「……ね? 俺、本気出したら早いんだよ」
「う、うそ……全然逃げられなかった……」
そのまま肩口に口付けが落ちて、思わずびくと体が震える。
「……じゃあ、このまま"抑えてみる"ね」