第39章 『観察』藤堂平助編
風が少し涼しくなってきた夕方。
縁側に並んで座って、お茶を飲んでいたときのことだった。
「……平助くんって、ほんと、かわいい顔してるよねぇ」
「……え、なに、急に?」
お茶を口に運んでいた平助くんが、ふいに固まる。
ももかは笑って、彼の顔をまじまじと覗き込む。
「ねぇ、ちょっとこっち向いて?」
「え、ちょ、近……」
「ふふ、動かないで。じっとしててねっ」
すっと手を伸ばして平助くんの頬に触れる。
ふわっとした頬の感触に、ももかの顔がほころんだ。
「睫毛、長いんだね……」
「……ももかちゃん?」
「眉のかたちも綺麗。目の色もすっごく澄んでて、光に透けると茶色く見える……」
「それに、鼻筋も通ってて……」
指先で輪郭をなぞるように、そっと触れる。
「ほっぺも柔らかいし……あごの形も、きれい」
「……あ、あの……ももかちゃん……」
「ん?」
「……そんな真剣な顔で、じーって見られたら……俺、照れる……!」
ぽつんと呟いたその頬は、真っ赤だった。
耳の先まで染まりかけていて、目も泳いでいる。
「ねぇ、へいすけくん」
「な、なに……」
「……照れた顔も、めちゃくちゃかわいい♡」
「~~~っ、だからぁっ!もうやめてよ~~!!」
ばっと顔を背ける平助くん。
でも、ももかはにこにこしながら、さらに覗き込むように身を寄せた。
「好きだなぁって思ってる人の顔、いっぱい見たくなっちゃうの、だめ?」
「だ、だめじゃないけど……」
「じゃあ、もっと見せて?」
「……もう、好きにしてよ……責任、取ってね……?」
そのままお互いの距離が縮まって──
ほんのり色づいた頬と、微笑む唇が重なる。
ふたりだけの、静かで甘い、夕暮れの時間。
fin.