第37章 『誘惑×キス』土方歳三編
「……さっきから、妙にこっちを見てるな?」
「え、そんなこと……」
(……ばれてる……)
部屋の灯りはもう落とされて、布団の中。
寄り添って眠る夜──のはずなのに。
ももかの頭の中には、さっきの口付けの余韻がずっと残っていた。
(土方さんの舌、少しだけ触れてきて……あんなの、ずるい)
思い出すたびに胸がじんわりと熱くなって、こんなふうに隣にいられる夜だからこそ──
今度は、わたしから……と、思ってしまった。
(……だって、土方さん、いつも余裕なんだもん)
ももかは布団の中、そっと身を寄せた。
「土方さん……」
「ん?」
小さな声で名を呼ぶと、優しく返事が返ってくる。
──今だ。
ももかはそっと、唇を重ねた。
不意をつかれた土方さんが、わずかに息を止める。
その唇の間に、今度は──
ももかの舌先が、そっと滑り込む。
「……っ」
明らかに身体がぴくりと跳ねた。
(……土方さん、驚いてる……)
舌と舌が、ゆっくり、慎重に絡まる。
いつもは土方さんからリードされることばかりだったのに、
今夜は──わたしが、触れて、舐めて、絡ませる。
「……おまえな……」
掠れた声で、土方さんが小さく唸った。
「……そんな顔で、そんなふうに……仕掛けてきやがって……」
逃がさないとでも言うように、腰にがっしりと腕がまわされる。
「……知らねえぞ」
「なにが、ですか……?」
「……もう、止められねぇってことだ」
その言葉と同時に、今度は土方さんのほうから深く口付けられる。
ももかの舌を追い詰めるように、たっぷりと。
いつもの余裕なんてない。
目の奥にはぎらぎらとした熱が灯っている。
「おまえから触れてきたんだ。……なら、覚悟しろよ」
それは、甘くて、熱くて、とけるような時間。
いつものように優しいけど、ほんの少しだけ余裕のない土方さんに、ももかは心の底から甘やかされていた。
fin.