第36章 『甘味食べ歩き』土方歳三編
「今日は外に出る。支度しろ」
いつものように無愛想な声。
だけど、その表情がほんの少しだけ柔らかくて。
「……えっ、ふたりで?わたしと?」
「そうだ。他の連中には知らせてねぇ。……たまにはいいだろ」
「はいっ!」
陽の光が差す昼の江戸の町。
ふたりでこうして並んで歩くのはすごく幸せで、ちょっと夢みたいな気分だった。
「土方さん、あの甘味処……見てください。白玉だんごって書いてある!」
ももかがふと立ち止まり、店先に並ぶ団子を指差す。
きらきらした瞳。ぱああと明るい表情。
そんなももかを見て、土方はふっと小さく笑った。
「……食いたいなら、素直に言え」
「い、いいんですかっ?」
「言わなくても顔に出てる」
そんなやり取りのあと、気づけば木皿に乗せられた団子が手に渡されていた。
「……食え。口の横、汚すなよ」
はふっと息を吹きかけて、あつあつの白玉を口に入れる。
「んんっ、あっつい……けど、やわらかくて美味しいですっ」
その幸せそうな声に、横でじっと見守っていた土方さんがぼそりと呟いた。
「……食う顔、ほんと幸せそうだな」
そのあとは、小さな煎餅屋で胡麻煎餅を。
焼き芋屋でほくほくの芋を。
茶屋でほうじ茶と、ふたくち羊羹を。
ふたりで歩きながら、何度も立ち止まって、あれこれ食べて、笑って。
いつもは見られないほどやわらかく、優しい表情の土方さんと過ごした、幸せな時間。
(こんな日が、ずっと続けばいいのに……)