第34章 『役者×浮気心』土方歳三編
「たまには、芝居でも観に行かない?」
出入りの呉服問屋のおばちゃんに誘われたのは、ぽっかりとした小春日和の午後だった。
「若い子にも人気なのよ。今の看板役者さん、見目もよくって!」
「ええ……そんな、大丈夫ですか?わたしなんかが……」
「大丈夫大丈夫!ももかちゃんみたいな可愛らしい子が来たら、役者の人も張り切っちゃうかもね〜」
そう言って腕をとってくれるおばちゃんに連れられて――
わたしは芝居小屋の舞台の前列に座ることになった。
幕が上がると目に飛び込んできたのは、ひときわ目を引く役者。
名は「嶋村 政之進(しまむら まさのしん)」と言うらしい。
鋭い眼差し、きりりとした眉。
袴姿で刀を持ち、敵を切り捨てるその凛々しさは、まるで――
(土方さん、みたい……)
似てる。とても、よく似てる。
けれど、芝居の中の彼は誰よりも饒舌で、華やかで、言葉巧み。
そして土方さんとは違う、どこか柔らかい色気があった。
(見てるだけで、胸がざわつく……)
役者と観客という一線のはずが、その視線がまるでわたしだけを捉えてるように錯覚してしまって、彼から目を逸らすことができなかった――