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夢のあとさき、恋のまにまに

第32章 『かっこいい責め』土方歳三編


昼過ぎ、屯所の庭にぽかぽか陽が差し込む頃。

縁側で帳面仕事をしていた土方さんの隣に、そっと腰を下ろす。

「なんだ?」

「なんでもないですよ。ただ、見てるだけです」

「……は?」

ちら、とわたしを一瞥し、すぐにまた筆に視線を戻す土方さん。

その横顔を、じーっと見つめる。

鋭くも落ち着いた瞳。整った鼻筋。きゅっと結ばれた口元。
何を考えてるのか読めない、けど、だからこそ目が離せない。

「…………おい。……まだ見てんのか」

「はい。……かっこいいので」

「……は?」

筆が止まり、肩がわずかにぴくっと動いた。

「こんなふうに、まじまじ見たことなかったけど……土方さんって、ほんとに、整ってるんですね」

「……」

「横顔も綺麗だし、睫毛も長いし。唇も……なんだか、色っぽいし」

「……やめろ」

「え?」

低い声が落ちてくる。

「そんな顔して、そんなことばっかり言われると……見てるだけじゃ、すまなくなる」

すっとこちらに目線が向けられた。
その瞳に捕まって、動けなくなる。

「……な、なんですか」

「こっちが聞きたい。まじまじ見られて、平気な奴がいると思うか?」

「土方さんなら、余裕かと思って」

「……ふっ」

わずかに眉を寄せ、苦笑いとも照れ笑いともつかない顔になる。

「さすがの俺でもな……あんまりずっと見つめられたら、気が散るんだよ」

「え、もしかして……照れてます?」

「うるさい。黙れ」

ぷいっと視線を逸らす土方さん。
……か、かわいい。

「顔、赤いですよ?」

「……ちっ」

頬のあたりが、じわっとほんのり桜色。

その瞬間、胸がぎゅっと鳴る。

「あ、あの……じゃあ、もう少しだけ、見てもいいですか?」

「……どうせ止めても見るんだろ」

「はい」

くすくす笑っていると、土方さんがふっとため息をつきながら――

「……そのかわり、こっちも見るからな」

「え?」

顎を指先ですくわれて、真っ直ぐに見上げさせられる。

「おまえの顔も、ちゃんと見させてもらう」

「……えっ」

「ずるいぞ、おまえだけ好きなだけ見て。……俺にも、見せろ」

そのまま、額をこつんとくっつけられる。
目と目が、近すぎるくらいに重なって――

「……かわいいな」

低く甘く、ひとこと。

わたしの顔が、一瞬で真っ赤になった。
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