第29章 『ラッキー〇〇』土方歳三編
夕暮れの屯所はほんの少しだけ肌寒く、庭の草がさらさらと風に揺れている。
わたしは洗濯物を取り込んだあと、着替えをしようと奥の部屋へ入った。
今日は縫い物や掃除を手伝っていたせいで、裾も袖も少し埃っぽく、さっぱりしたい気分だった。
「……ふぅ」
帯の結び目を片手でほどき、着物の前を開いた――そのとき。
ガラッ――
入ってきたのは、土方さんだった。
「――――っ!!」
脱ぎかけの着物。崩れた襟。肌に沿う薄い布からのぞく素肌。
土方さんの目が一瞬で釘付けになったのがわかる。
「……」
沈黙のあと、土方さんがくぐもった声で呟いた。
「見たくて入ったわけじゃねえ、けど……そんな無防備な格好で、誰か入ってきたらどうするつもりだったんだ」
「ご、ごめんなさい……でも、まさか土方さんが来るなんて……」
「……俺も、まさかこんな光景を見るとは思ってなかった」
小さな声でそう言った土方さんが、壁に手をついて近づいてくる。
(……あれ?なんでこんなに近いの?)
「おまえ、気づいてないかもしれねぇが……今の姿、まるで誘惑してるみてぇだ」
「えっ……」
その瞬間、土方さんの手がそっと襟元に伸ばされた。
肌に触れた指先が、驚くほど熱い。
息がかかるほどの距離で、土方さんは低く呟いた。
「……抱き締めても、いいか?」
頷いた瞬間、ぐいっと引き寄せられて、土方さんの腕に収まる。
頬に、耳に、首筋に、熱を帯びた口付けが降り注ぐ。
「こんな格好で、俺を試す気だったか?」
「ち、ちがっ……」
「だったらなんで、こんな……触れてほしそうな顔してんだ」
まっすぐな目で見つめられると、何も言えなくなった。
支えるように抱きしめられ、着物の裾が土方さんの手でゆっくり整えられていく。
(……あれ?これ、直してるんじゃなくて、脱がされてる……)
そのまま何度も名前を呼びながら、甘く、深く、愛される。
誰よりも不器用で、誰よりもまっすぐな、土方さんらしい愛し方で。
fin.