第30章 『ラッキー〇〇』藤堂平助編
宴の準備中。ももかは足元の箱に蹴つまづき、しゃがんだ拍子に帯が緩んでしまった。
襟元からちらりと覗くのは、白くて柔らかそうな肌。
……そして、その瞬間に飛び込んできたのが藤堂平助だった。
「お、ももかちゃ──」
バチンッと目が合った。
そのままの格好で、着物が緩んだままのももかと。
(──……えっ!?)
ガチィッと平助の動きが止まった。
「っっっっっっ……!!」
顔がみるみるうちに赤くなる。
「へ、へいすけくん!?ちがっ……!」
「見てない!!いや、見たけど……見てないことにする!!!」
「お、落ち着いて!こっち向かないで……!」
わたわたと自分の顔を手で隠し、顔を背けて挙動不審になる平助。
(目が泳いでるし……!)
「やばい……ぜったい怒られる……
……でも……かわいかった……」
「えっ!?」
「な、なんでもない!!」
すぐに全力で否定するも、耳が真っ赤。
「……なんでそんな無防備なの!?いや、そうじゃないよね!?違うよね!?」
慌てて走り去ろうとする平助の袖を、ももかがそっとつかんだ。
「待って。……怒ってないよ?」
「っ、……ほんと?」
「うん。恥ずかしいけど……平助くんなら、別にいいし……」
ももかが顔を赤らめながらそう言うと、平助の目が潤んだ。
「ももかちゃん……ずるい……
そんなこと言われたら、もう……見ないなんて無理だよ……っ」
そのあと、しばらくのあいだ控室から出てこなかったふたり。
平助はずっと真っ赤なままで、ももかに抱きついて甘えていた。
fin.