第28章 『ラッキー〇〇』沖田総司編
その日は屯所で小さな宴の準備があり、わたしはその手伝いをしていた。
運んでいた食器が滑ってしまって、咄嗟に受け止めたその拍子に──
「……あっ!」
胸元の帯が少し緩んで、着物の襟がふわりと開いてしまった。
「ももかちゃん?」
ちょうどそこへ現れたのは──沖田くんだった。
「あ……っ、沖田くん……っ!」
とっさに腕を寄せて隠すが、わずかに見える素肌を見て、沖田くんはピタッと動きを止めた。
そして──
「わぁ……見ちゃった」
と、いつも通りの笑顔で口にした。
でも、その頬はうっすら赤く、耳に至っては真っ赤だった。
「そ、それは……今、偶然だから……!」
慌てて背を向けて着物を直すも、沖田は後ろからそっと近づいてきた。
「うん、偶然だってわかってるよ。でもさ……
……すっごく、綺麗だった。
襟元、緩んでるのも……恥ずかしがってる顔も。
ぜんぶ……、すき」
声のトーンが変わる。耳元でそっと囁くその声が甘くて震えるようだった。
「あー……こんなに赤くなっちゃって、どうしよう」
ぎゅっと抱きしめられて、肩に顔を埋められる。
「見えちゃった分、責任とってもらおうかなぁ」
「わたし、悪くないよ……っ」
「でもドキドキしたのは本当だから……もう、知らないよ?」
その夜の沖田くんはいつもより少し大胆で、甘えるように離してくれなかった。
fin.