第19章 『誘惑×理性崩壊』土方歳三編*
夜の屯所。月明かりのさす廊下。
わたしは、そっと土方さんの部屋の戸を叩いた。
「……なんだ。夜分に」
「眠れなくて……少しだけ、お話したいです」
いつもなら冷静に受け入れてくれる彼。
本人も、そのつもりでいた。
でも――
わたしにはひとつ、目論見があった。
(たまにはちょっとくらい、困らせてみたくて)
部屋に上がり込んだあと、
あえて、少しだけ着物の襟を緩めてみる。
ゆるりと開いた胸元、ちらつくうなじ、
ほんの少しだけ、色っぽく座り直して――
「……土方さんって、いつも落ち着いてて、すごいなって思うんです」
「そういう性分だからな」
「でも……もしわたしが、誘惑してきたら……」
ちら、と上目遣いで彼を見上げる。
「それでも、冷静でいられますか?」
ピク、と彼の指が止まる。
そしてすぐに、低く乾いた声。
「……いい度胸してんな、おまえ」
「だって、土方さんって……こんなに近くにいても、何もしてこないし」
そっと隣に座って、彼の膝に手を置いて、
ほんの少しだけ身体を寄せて。
「わたしが、こんなに無防備でも……何も思わないんですか?」