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夢のあとさき、恋のまにまに

第5章 『笑顔の剣士、永倉新八』


昼下がりの廊下。干したばかりの制服を抱えて歩くももかの姿があった。

慣れない着物に足をとられてよろけた瞬間、角を曲がったところで誰かとぶつかってしまう。

「わっ、ご、ごめんなさいっ!」

思わず後ずさると、目の前の男性が、ぱっと両手を広げて笑った。


「おっと、大丈夫?怪我してない?」

軽やかな声に顔を上げると、明るい茶髪に快活な笑顔を浮かべた男の人。

目元の印象が柔らかく優しそうで、思わず目を奪われてしまうほど端正な顔立ちだった。


「……君が噂の''未来から来た娘さん''か。へえ、本当に現代っ子って感じだなぁ。いやぁ、想像よりずっと可愛いね」

「えっ……い、いえ……そんな……!」

言葉に詰まるももかを見て、その人はくすっと笑う。


「俺は永倉新八。剣術道場の師範代、みたいなもんかな。よろしく」

「桜名ももかです。あの、こちらこそ……よろしくお願いします」

「ももかちゃん、ね。いい名前だね!君の雰囲気にぴったり」

さりげないひと言に、胸の奥がじんとする。

(この人、自然にこういうこと言うタイプだ……)


「ところで、その制服……なんだか新鮮でさ。そういうの、俺にも似合うと思う?」

「えっ!?に、似合わない……と思います……!」

「ははっ、冗談だよ。ほら、顔赤い。可愛いなぁ」

「もう、からかわないでください……!」


明るく笑いながら、彼はさりげなくももかの歩調に合わせて歩き出す。

「よかったら、この屯所の中、案内しようか?せっかくだし、他の隊士たちも紹介するよ。変な奴もいるけど、悪い奴はいないからさ」

「ありがとうございます」

そうして、新八さんは歩きながら、廊下の向こうに見える隊士たちの話をしてくれた。


「斎藤一はね、あの無口なやつ。見た目はちょっと怖いけど、根は真面目で優しいやつだよ。

藤堂平助は……君みたいな子、好きそうだなぁ。年下だけど、グイグイくるから気をつけて」

「そ、そうなんですか……?」


「でも、一番に仲良くなるのは……俺がいいな」

ふと、こちらを覗きこむように笑ってそう言った新八さんの目がまっすぐで、冗談とも本気ともつかなくて。


その笑顔の下に隠された本音が、少しだけ気になった。

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