第4章 『凍った瞳の奥にあるもの』
朝焼けが、静かに畳の縁を照らしている。
わたしはひとり、廊下で黙々と雑巾を動かしていた。
不意に、背後から土方さんの低く冷たい声が飛んでくる。
「おい、そっち、まだ終わってねえぞ」
「す、すみませんっ!」
腰を浮かしかけていたわたしは、慌てて座り直した。
裾を乱してよろけた拍子に、雑巾が手から滑り落ちてしまう。
「ったく……」
しゃがみこんだ土方さんが、わたしの手から落ちた雑巾を拾い上げ、手渡してくれた。
そして手元を見つめたまま、小さく呟く。
「……おまえ、手が白いな」
「えっ……」
「日焼けしてねえ。握り方も甘い。道具をまともに使ったこともねえ手だ。……まるで、姫様みたいだな」
(え、なに、急に……!?)
驚いて顔を上げると、すぐそこに彼の顔があった。
凛とした眉、整った鼻筋、そして……氷のように冷たいはずの、瞳。
「誰にも触らせんなよ、そんな手。……乱暴な奴に傷つけられるぞ」
「……!は、はい……」
そう言って視線を遠くにやった彼の横顔は、どことなく……
(……さみしそう)
気づけば、心の中にぽつんとそんな感情が浮かんでいた。