第2章 『刀の音と、やさしい笑顔』
「おや、可愛いお嬢さんだね」
屯所の玄関で靴を脱がされ、座らされていると、ふわりと優しい声が降ってきた。
顔を上げれば、春の陽だまりのような微笑を浮かべた美男子。
柔らかい茶髪、涼しげな目元、でも、芯の強さを感じる瞳。
「そんなに緊張しなくていいよ?俺は沖田総司。ここの一番隊隊長だよ。……君の話、ちゃんと聞かせてくれる?」
わたしは信じられない気持ちのまま、ぽつぽつと話し出す。
気づいたら知らない場所にいて、何がなんだかわからなくて……
沖田くんは真剣に耳を傾け、うんうんと相槌を打ちながら、それでもどこか、少年のように楽しそうに笑ってくれる。
「そっか……じゃあ君、未来から来たんだね」
「信じて……くれるんですか?」
「うん。だって、本当に困ってるって顔をしてるから」
(……やさしい)
その一言で、緊張の糸がふっと緩んだ気がした。
「総司、勝手に情けをかけるな。こいつはまだ素性不明だ」
背後から冷たい声が響く。
振り向けば、先ほどわたしを連行した男――土方歳三が立っていた。
そのまま近づいてきた彼が、わたしの顔をまっすぐに見つめる。
その氷のような視線に、思わず息を飲んだ。
「だが……この目に嘘はない。数日は様子を見よう。ただし、規律は守ってもらう。いいな?」
「……はい」
「掃除も、食事も、共同生活に必要なことはやってもらう。勝手な行動は許さん」
その厳しい口調に、わたしはぴしっと背筋を伸ばした。
けれど、どこか彼の目は、最初に出会ったときよりも少し、柔らかくなっていた気がする。
(この人、本当は……)
――この日から、わたしと新撰組との日常が始まった。