第1章 『桜の舞う日、時を越えて』
強く吹きつけた風が、制服のスカートをふわりと揺らした。
帰り道、春の匂いが混じる坂道。
いつも通りの住宅街、いつも通りの夕暮れ――
……のはずだった。
「っ、なに……ここ……?」
気づけば、アスファルトは見知らぬ石畳に変わっていた。
遠くに見えるのは朱の鳥居、連なる和の街並み。
さっきまであったコンビニの看板も、駅の入り口も、家の表札さえ、どこにもない。
空気が、違う。
土の匂い、草の匂い、煙のような匂い。
「ど、どういうこと……夢?いや、こんな……」
混乱する頭を抱える間もなく――
「おい、そこ!なにをしてる!」
背後から鋭い声が飛んできた。
びくっとして振り返ると、水色の羽織に白い帯を締め、刀を差した男たちが数名。
その中心にいたひときわ鋭い眼差しの男が、まっすぐ歩いてくる。
「……名を名乗れ」
切れ長の瞳。鋭い眉。口元はきつく結ばれていて、息を呑むほど整った顔立ち。そのあまりに冷たい雰囲気に、思わず肩が震えて背筋がのびた。
「わ、わたしは……桜名、ももかです。高校生で……その、帰り道だったんですけど……」
「高校?なんだそりゃ……」
男たちがざわめく。
「どうする?あの格好、どう見てもこの辺りの者じゃねぇ」
「間者の可能性がある。……屯所に連れていく」
(と、屯所!? って、まさか……)
わたしを取り囲んで、男たちが歩き出す。
そのまま引き込まれるように、わたしは幕末の京都、そして新撰組の世界へと踏み込んでいった――