第8章 『土方歳三 個人ルート』
『朝の気配と、愛しいぬくもり』
障子の隙間から、ほのかな朝の光が差し込んでいた。
その光を感じながら、わたしはそっと目を開ける。
布団の中、隣にはまだ眠っている土方さんの姿。
少しだけ乱れた髪。静かにゆっくりと上下する肩。
なにもかもが、特別に見える気がした。
「……起きたか」
不意に低く響いた声に、びくりと肩が跳ねた。
「すみません、起こしちゃって……」
「いい。もともと、眠り浅いしな」
言葉を交わすたびにゆっくりと頭が冴えてきて、目の前の現実に胸の奥がじんわりとしてくるのがわかった。
(夢じゃ、ない……)
「好き……です……本当に……」
ほとんど無意識にこぼれ落ち、思わず俯いてしまう。
すると土方さんはわたしの方に腕を回し、そのままぐっと引き寄せてこう囁いた。
「……昨日のつづき、してやろうか」
「~~っ、そういうの、ずるいです」
顔が熱くなって、思わず布団の中に身を潜らせる。
けれど、逃げ場なんてどこにもなかった。
「顔、見せろ。……逃げんな」
「……っ、見ないでください……」
「お前の方が、ずるいだろ……」
呟くような声と共に、額に口づけが落とされる。
上目で見つめると、見えない痕を優しく撫でられて、ドキドキするけど、心地よくて。
「今朝はこれで我慢してやるよ。
……忘れんなよ、昨日のこと」
「……忘れるはず、ないです」
土方さんはふっと微笑み、満足そうに囁いた。
「なら、いい」
彼の腕の中、胸の鼓動に耳を澄ませながら、そっと目を閉じる。
この人の隣なら、どんな朝も、どんな明日も、きっと愛しくなる。
幕末の朝に、甘い未来の匂いがした。
fin.