第8章 『土方歳三 個人ルート』
「でも俺は、おまえに優しくもできねぇし、口が上手いわけでもねぇ」
ふう、と吐き出された煙が、夜の空気に静かに溶けていく。
「……わたしが欲しかったのは……たぶん、そういう言葉じゃなくて」
そこまで言って顔を上げると、いつの間にかこちらを見ていた彼の目とぴたりと重なった。
「……っ、いつも黙って見てくれること。……叱ってくれること。心配してるのに、うまく言えなくて黙ってしまうところ。……全部、わたしは好きなんです」
土方さんが、ふっと目を細めた。
「馬鹿な女だな」
「……はい。でも、土方さんが……」
好きです、と言い終わるよりも早く、頬に優しく手を添えられ、気づけばまっすぐな視線がわたしを捉えていた。
「……もう、知らねぇからな」
「ひじかた、さん……」
ゆっくりと顔が近づいていくのがわかり、わたしはぐっと目を閉じた。
「……逃げんなよ」
低く呟くようにそう言って、唇が重ねられる。
ふわりとした残り香が鼻をくすぐり、驚きと嬉しさと、どうしようもないほどの愛しさに、思わず心臓が跳ねた。
それは、息をするのも忘れてしまうほど甘い口付け。
まるで、言葉よりも深く、「想い」を伝えるように。
唇を離したあと、土方さんは額をぴたりとくっつけて、目を閉じた。
「好きだ……ももか……」
どこか苦しげに、けれど優しく。
「この先、何があっても――俺だけを見てろ」
月明かりの下で交わした約束は、
何よりも強く、あたたかく、わたしの心に焼きついた。