第8章 『土方歳三 個人ルート』
返事をする前に、パタパタと足音が近づいてくる。
「ちょっと待って!俺、出遅れた……!」
平助くんが、少し息を切らしながら顔を出した。
「ももかちゃん!聞いて!!俺も……好き、だよ」
「へ、平助くん……」
「……本気で好き!みんなに囲まれてる君を見てると、すごく、不安になるんだ」
慌ててるのに、その目は真剣で。
「……俺を、選んでよ」
(こんなに……まっすぐに、想われてる)
「……俺は」
と、さらに低い、静かな声が風に乗った。
視線を動かせば、最後に立っていたのは斎藤さんだった。
「俺は、ももかを護りたい。……それだけだ」
いつものように無表情で、どこか淡々と。
けれどその声は、まるで氷の下にあたたかな火を灯しているようだった。
「斎藤さん……」
「お前が誰を選ぼうと、俺の意志は変わらない。だから、選ばれなくても構わない」
「え……?」
「ただ……選ばれるなら、誰にも渡したくない。それだけだ」
その静けさが、胸に刺さった。
優しいのに、重くて、苦しくて。
(みんな……本気なんだ)
心がぐらぐらと揺れる。
好きって、こんなにも色んな形があるんだ。
でも。
なのに。
なぜだろう。
この胸の中の空白を埋めるのは、誰の言葉でもなくて――
厳しい声で叱ってくる、あの人のひとことで。
寡黙なまなざし。
そっと差し出された手。
誰よりも遠く見えた背中。
(土方さん……)
たった一人だけ、想いを口にしないその人が、
どうしようもなく、心の中でいちばん近くにいた。