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夢のあとさき、恋のまにまに

第58章 『買い物×if』沖田総司編


夕方の市中。

買い出し袋を片手に、ももかは市場の通りをゆっくり歩いていた。


「今日はお豆腐が安くてよかったなあ……」

道端の猫に目を留めて立ち止まり、ふふっと微笑む。


何でもない、いつも通りの平穏な日常。

けれどその後ろには、彼女の知らない"影"が確かに存在していた。



――少し前。ひと気の少ない裏通り。

薄汚れた着物を纏った男たちが、ももかの後をつけていた。


「おい、あの嬢ちゃん、誰かと一緒か?」

「いや、今はひとりみてぇだな。……えらく上物じゃねぇか」


邪な目を光らせ、ももかの顔や首筋を舐めるように見やる。

だが、そのとき。 


「……やめといたほうがいいよ」

ぬるりと背後に立ったその声に、男たちはぎょっとして振り返る。


そこにいたのは、沖田総司。

柔らかそうな茶髪に、誰もが見惚れるような笑顔。

だがその目は、氷のように冷たかった。


「あの子に手を出すつもりなら――

……二度と動けない体にするよ?」


たった一言。

それだけで男たちは、何かに押し潰されるように、身を竦ませた。


「ちっ……に、逃げるぞ……!」

小走りに去っていく背中を見送ると、沖田は大きく息をついた。


「……ももかちゃんに何かあったら、俺……」



――そして今。

何も知らずに、沖田が待つ屯所の門に着いたももかは、満面の笑みを浮かべて声をかけた。


「沖田くん、ただいま!」

「おかえり。買い出し、順調だった?」

「うん!いいお豆腐があったよ。お店の人も優しくてね……」

「そっか。よかった……」

「ふふ、どうしたの?変な沖田くん」

首を傾げて笑うももかの頭に、そっと手を伸ばす。


なにも気づいていない。そのままでいい。

そんな笑顔のままで、ずっと――


「……守れて、よかった」

小さく呟いた声は、ももかの耳には届かなかった。


届かなくていい。

今は、その笑顔を守るだけ。


沖田はただ、いつも通りの笑顔で、ももかの頭をぽんぽんと優しく撫でた。



fin.
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