第56章 『キス×我慢』土方歳三編
吐息が重なるほどの距離。
手と手がかすかに触れ、心臓の音まで聞こえてしまいそうな空間――
「……このまま押し倒してやりたい」
「負け、ですよ?」
「チッ……おまえって女は……」
睨んでいるはずなのに、呟く声はどこか甘くて切ない。
――その目に映るのは、わたしだけ。
「ねえ、土方さん」
「……あ?」
わたしはそっと、両手で彼の頬を包み込む。
「わたしのこと、好きですか?」
「バカ……そんなの、今さら聞くまでもねぇだろ」
「口付け……したいな」
「っ、反則だろ……そんな顔」
「目、逸らさないでください」
覗き込むように言えば、土方さんの瞳が小さく揺らいで……
次の瞬間――彼の唇が、わたしの額に落ちた。
「……降参だ。負けた」
「わたしの勝ちですね。土方さん」
「おまえ……ほんと、悪い女だな」
「だって、土方さんが勝負をしかけてきたんです。……"責任"取ってくださいね」
「……勝ち逃げなんて、させるかよ」
そのあとは――
静けさも、言葉も、全てを溶かすように。
甘く、熱く、深く、まるで長い間我慢していたように、何度も、何度も。
「まだ終わってねぇぞ……ももか」
そう囁く土方さんの余裕は、もう完全に崩れていて……
もう勝ち負けなんてどうでもよくなるほどに、身も心も、彼に染められていった。
fin.