• テキストサイズ

夢のあとさき、恋のまにまに

第55章 『早朝×鍛錬』土方歳三編


夢中で見ていたら、いつのまにか鍛錬は終わっていて、わたしは冷たい水が入った湯呑を手渡した。

「ありがとな」

受け取った土方さんの指が触れ、それだけで胸がきゅんと高鳴る。

ごくごくと喉を鳴らして飲み干したあと、土方さんは手を伸ばして、やさしくわたしの手首をとった。


「ちょっと、こっち来い」

「えっ……」

驚いて見上げると、土方さんはそのまま手を引いて、縁側の柱の影――人目のない場所まで連れて行った。


「……さっきの、礼な」

「え?」

問い返す間もなく、唇がそっと触れた。

(……っ!)


短いけど、ちゃんとやさしい口付け。

それだけで顔が火照ってしまう。


「……"こんなの初めて"みたいな顔すんな」

「だ、だって……」


照れ隠しに下を向こうとすると、顎に手が添えられる。

「おい、逃げんな」

低い声が耳に落ちて、胸がまた高鳴った。


「……汗……拭かせてください」

そう言って、懐から手ぬぐいを取り出すと、土方さんがほんの少し目を細めてうなずいた。

「じゃあ、頼む」

こくりとうなずいて、そっと顔の近くから、額と、頬と、木刀を握っていた腕や、肩、胸元――

(……すごく、熱い)


鍛えられた身体はまるで彫刻のようで、触れるたびにどきどきが増していく。

夢中になって拭いていると、いつのまにか近くにある、顔。


「……なぁ、ももか」

「っ、はい……?」

「拭いてくれるのは嬉しい、が……

これ以上されたら、また礼をやる羽目になる」


そう言った土方さんの指先に、そっと顎を持ち上げられる。

何かを確かめるような、まっすぐな瞳。

誘われるように、まぶたを閉じた。


そのまま、やさしく、深く、唇が重なる。

さっきの、お礼とは違う――

甘くて、長くて、ほどけてしまいそうな口付け。


「……顔、真っ赤だぞ」

「ひ、土方さんのせいです……」

「なら、もっと赤くしてやるか?」


からかうような声音。けれどその目はまっすぐで、誰よりも優しくて、かっこよくて――


誰よりも努力を重ねる彼が、わたしにだけくれる甘さが、嬉しくてたまらなかった。



fin.
/ 126ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp