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夢のあとさき、恋のまにまに

第55章 『早朝×鍛錬』土方歳三編


「――はっ!」

空気を斬るような鋭い掛け声が、朝の静かな中庭に響いた。


まだ誰も起きていない時間。

そっと襖を開けて、廊下の陰から庭を覗き込むと、そこには上半身裸の土方さんがいた。

鍛錬着の上衣を脱いで、額に汗を滲ませながら、黙々と木刀を振るう姿。


「……かっこいい……」

思わず口にして、はっと口を塞ぐ。

気づかれたら恥ずかしい。

だけど、目が離せない。


朝日に照らされた背中は、動くたびにしなやかに筋が浮かび上がる。

腕も胸も、見惚れるほど引き締まっていて――

普段見せない、一人の「男」としての姿。

(あんなふうに努力してるんだ……)


土方さんは、強い。

冷静で、指揮も的確で、誰よりも厳しい。

でも、その裏にはこんな努力があるんだと思うと、思わず胸がぎゅっとなった。


ふいに、土方さんがぴたりと動きを止める。


「ももか。そこにいるの、わかってるぞ」

「っ……!」

思わず驚いて、肩がびくっと跳ねる。

そっと覗いていたつもりが――気づかれていたなんて。


恥ずかしくて目を伏せていると、すぐ目の前まで歩いてきた土方さんが、ふうっと小さく息を吐いた。

怒られるかと思ったのに、土方さんはやれやれと汗をぬぐいながら小さく笑った。


「……俺の姿、そんなに見ていたいか?」

「えっ……、そ、そんな……!」

「素直になれ。顔に出てた」

額を指で軽く弾かれて、思わず赤くなる。

「見惚れて、ました」

「……ふん。そうか」


口元に浮かぶ、わずかな笑み。

滅多に見せないそれは、どこか誇らしげで――

少しだけ照れているようにも見えた。


「じゃあ……今度は、もうちょっと近くで見せてやる」

「え?」

「次は俺の目の前で見てろ。……逃げんなよ」


耳元で囁くように言われて、胸がどきんと跳ねた。

(それって、鍛錬? それとも――)


視線が合い、気づいた土方さんがふっと笑う。

その笑みが妙に色っぽくて、どこか意地悪で――

ますます、目が離せなくなってしまった。

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