第54章 『不安×愛情』藤堂平助編*
雨が降っていて、遠くで雷が鳴っていた。
その音が少し怖くて、わたしは平助くんの部屋を訪ねた。
「……どうしたの? 眠れない?」
「うん……ちょっとだけ、寂しくて」
「ふふ、俺もだよ。……来てくれて、嬉しい」
布団に並んで寝そべりながら、平助くんがぽつりと呟いた。
「ももかちゃんってさ、すごく優しくて……誰にでも分け隔てなく接するでしょ」
「うーん……そうかも」
「俺……それがすっごく好きで、すっごく怖いんだ」
「……怖い?」
「だって……俺、あんまり強くないから。
いつかももかちゃんが、もっとかっこよくて、強くて、大人な誰かの方に行っちゃうんじゃないかって……」
平助くんは、かすかに震える声で言った。
「子どもっぽいし、真面目なときは空回りするし、ももかちゃんのそばにいる資格なんて、ほんとはないのかもって……」
「そんなこと、ないよ」
わたしは両腕で彼を抱きしめる。
「平助くんの明るさも、優しさも、寂しがりなところも、全部……わたしの大好きな"平助くん"なの」
「……ほんとに?」
「うん。本当に。……だから、そんな顔しないで」
彼の額にキスを落として、頬に、唇に、やさしく触れた。
「わたしのほうこそ、平助くんに"選んでもらえて"嬉しかったんだよ」
「……ももかちゃん……」
平助くんは少し潤んだ目で見つめてきて、そっと手を伸ばしてわたしの頬に触れた。
「……抱いて、いい?」
「うん……平助くんと、したい」
――
唇を合わせながら、そっと肌をなでて、わたしの中に彼を迎え入れる。
重なり合う身体は、焦りや欲じゃなく、ただあたたかい気持ちに満ちていた。
「好き……大好き……ももかちゃんのぬくもりが、俺を救ってくれる。俺の不安、全部溶かしてくれる……」
「わたし……ずっとそばにいるよ」
「……気持ちいい? 俺、優しくできてる……?」
「ん……すっごく、優しい……」
ゆっくり、奥まで、何度も。
目を合わせながら、唇を重ねながら――
「……お願い、ずっと俺のそばにいて」
「うん……約束する」
ふたりの身体が重なったまま、心もひとつになる。
その夜、平助くんの不安は、わたしの愛に包まれて、静かに優しく溶けていった――
fin.