第52章 『痺れ薬×我慢』土方歳三編
――あれからしばらくして。
土方さんの様子が、徐々に変わってきていた。
最初の余裕ある口調は消え、視線はわたしの手元や胸元に釘付けになっている。
「ももか……おまえ、自分が何してるかわかってるのか……」
「えっ……? お世話してるだけ、ですけど……」
「……浴衣の襟が緩んでんだよ。胸が……」
「――きゃっ!」
自分では気づいていなかったけど……どうやら湯上がりのまま駆けつけたせいで、胸元がだいぶ開いてしまっていたらしい。
慌てて直すけれど、その様子を見て、土方さんは顔を逸らした。
「……動けねぇだけで、欲が消えたわけじゃねぇんだぞ。……わかっててやってんのか?」
「ち、ちが……そんなつもりじゃ……っ」
わたしは涙目になりながら、しゅんと肩をすくめる。
「……ごめんなさい……」
「……くそ、かわいすぎんだよ、おまえ……」
――
そして数日後。
痺れが完全に解け、身体が元通り動くようになった日。
「おい、ももか」
「はい? なにか――きゃっ……」
いきなり抱き上げられたかと思えば、次の瞬間には布団の上に押し倒されていた。
「ずっと我慢してた。ずっと手ェ出せなくて……気が狂うかと思った」
「ひ、じかたさん……」
「……今夜はもう、止まらねぇぞ」
その夜――
動けなかったはずの土方さんは、誰よりも強く、甘く、わたしを抱きしめてくれた。
そして、何度も囁いてくれた。
「全部、おまえのせいだ……愛してる。もう……離さねぇ」
fin.