第52章 『痺れ薬×我慢』土方歳三編
「土方さん、大丈夫ですか……?」
「……ああ、悪いな。こうしてるしかねぇらしい」
(笑っちまうほど、無力だな……)
敵方との戦闘中、わずかに浴びた痺れ薬の影響で、土方さんは一時的に身体を動かせなくなっていた。
意識ははっきりしているのに、手も脚も、まったく言うことを聞かない。
命に別状はないけれど、完全に体が動くようになるまでには数日かかるという。
「すぐに戻るって、先生も言ってましたけど……念のため、わたし、ついてますね」
「……すまねぇ」
濡らした布で、そっと彼の額を拭っていく。
指先で少しだけ彼の前髪をかき上げると――
「っ……」
わずかに、土方さんが息を呑んだ気がした。
「動けないの、つらいですよね……喉、渇いてませんか?」
「いや……水よりも、おまえのほうがよっぽど……いや、なんでもねぇ」
「え?」
「気にすんな。あんまり顔、近づけすぎんなよ。……危ねぇから」
「……?」
彼の言葉の意味がわからず、わたしは首を傾げるしかなかった。