第48章 『失恋×if』土方歳三視点
庭先から、笑い声が聞こえてきた。
ふと障子の隙間から外を見ると、平助とももかが並んで腰を下ろしている。
夕日が沈みかけて、空が茜色に染まる中。
ももかが楽しそうに何かを話し、平助が笑って、それから──そっと彼女の髪に手を伸ばした。
指先が触れた瞬間、ももかは少し照れて俯く。
胸の奥が、ぎゅっと痛んだ。
(……そういう顔、俺は一度も見たことがねぇ)
平助は若いが、真っ直ぐで、人の懐に入るのがうまい。
俺はやたらと警戒されるが、あいつは自然と笑わせる。
……だからきっと、惚れられるんだろう。
「土方さん、何してるんです?」
背後から総司の声。
「別に」と短く返して、障子を閉める。
見てたって、どうにもならねぇ。
廊下を歩きながら、心の中で苦く笑う。
(……妬くなんて、らしくねぇな)
でも、どうしても。
さっきのももかの笑顔が、焼きついて離れない。
本当は——
「おまえは俺の隣にいろ」って、腕を引き寄せたかった。
唇を塞いで、他の誰の名前も呼ばせねぇようにしたかった。
でも、それをしたら、ももかはもう二度と笑ってくれなくなる。
縁側のほうから、また笑い声が聞こえた。
その音を背に、俺は小さく呟く。
「……あいつを泣かせたら、許さねぇ」
fin.