第47章 『失恋×if』藤堂平助視点
夕暮れの屯所。
廊下を歩いていたら、ふと縁側の向こうに二人の姿が見えた。
——土方さんと、ももかちゃん。
肩が触れるくらいの距離で、並んで座っている。
彼女が笑うたびに、土方さんの表情が少しだけ柔らかくなるのが、ここからでも分かった。
あぁ、完全に俺の入る余地なんて、ないんだな。
(……わかってたんだよ、最初から)
あの人は強くて、頼りがいがあって、隙なんて見せない。
そんな土方さんが唯一、気を許してるのが彼女だってことも。
わかってたって胸の奥は、こんなにも、重い。
「——平助。そこで何してんだ?」
背後から声がして振り返ると、新八さんが立っていた。
俺は慌てて笑顔を作る。
「ううん、別に。ちょっと風、気持ちいいなって思っただけ」
「……そっか」
新八さんは、俺の視線の先に気づいたのか、頭をくしゃっと一撫でして通り過ぎていった。
もう一度、二人の方を見る。
土方さんが珍しく小さく笑っていて、ももかちゃんも嬉しそうに笑う。
(その笑顔、俺も見たかった。……俺だけに、向けてほしかった)
でも、もう叶わないから。
夕焼けが少しずつ夜に溶けていく。
見届けるみたいに視線を外して、深く息を吐く。
「……お幸せに、なんて、まだ言えないな」
小さく呟いた言葉は、夜風に溶けて消えた。
それでも、廊下の角を曲がる前にもう一度だけ、振り返る。
彼女が笑っている限り、この気持ちをしまい込むことくらい……できるはずだ。
たとえ、その笑顔が俺に向くことはなくても。
fin.