第1章 lie and…【瀬呂範太】
「あ!セロファンじゃん!え、なに、もしかして警備中ですかぁ?それともファンだったり?」
友人はプロヒーローを前にして、きゃあきゃあと騒いだ。私とは対照的に…
「はは、仕事でーす。こんだけ人が集まるし、日本初公演となると、一応厳戒態勢って感じね」
くるくるとぬいぐるみを手で弄びながら、あっけらかんとして答える彼。もうここから、逃げたい…。
「お勤めご苦労です!なーんだ、ぬい持ってたから、ハンくんのファンかと思っちゃった!って、!?どうしたの急にテンション低いじゃん」
パシパシと方を叩かれたが、顔を上げることができない。
「ハンくん?」
彼は不思議そうにぬいぐるみを眺めた。
「…あ、この子の推しの名前です!ちなみに私は、ビジュ担当のソジュン推しですー!」
団扇をセロファンに見せつけ、友人はにーっと笑った。
「あ、へぇ。お姉さんの推しは、『ハンクン』と言うのねー。ほら、せっかくのライブなんだから、楽しまないと」
そう言って、セロファンは私の手を取り、ぬいぐるみをやや強めに押し付けた。全てが怖い。今日は色んな意味で家に帰りたくない。
「は、はは…そーですね、楽しまないと」
頑張って笑顔を作ろうとし、ふと顔を上げると、メットの奥にぼんやりと見えた。
彼の、全く笑っていない目。
私だけ地獄のような空気の中、タイミングよく入場開始のアナウンスが響き、周りの人が移動を始めた。
「あ!入場できるって、ほら行こうよ!セロファンも、この後も頑張ってくださいねー!」
何も知らない幸せな友人は、私の服をちょいちょいと引っ張り、列の波に向かった。
一刻も早くここから逃げたかった私は、彼に一応「それじゃあ…」と声をかけて行こうとした。
が、ぐい、と左手首を掴まれた。
「事情はあとで嫌という程聞いてあげるから、楽しんできなね、」
背筋が凍るような冷たい声色に、思わず声を上げた。
そのまま手を振りほどいて走って友人の方に向かい、ちらりと後ろを振り返ると、こちらに向かって手を振るセロファンが見えて、もう心臓が色んな意味で爆発しそうだった。