第1章 lie and…【瀬呂範太】
入場まであと20分になったので、レジャーシートなどを片付けて、いつでも入れるように準備をした。
そういえば、まだタペストリー撮ってなかった!と彼女は、わたわたとペンライトと団扇を取り出した。ほら、と促されて私も同じものを取り出すと、タペストリーの前で一緒に写真を撮った。
全員集合のと、それぞれの推しの前で。
で、それを後で、インスタのストーリーに上げちゃったりして…それ目的では無いけど、後で見返すと楽しいから!思い出作りって感じで、なんだかワクワクした。
「そういえば、今日のライブの警備員さ、なんかヒーローたち何人か混ざってるよね?」
友人はうちわに付いた埃を払いながら、辺りを見渡した。たしかに、スタッフと警備員と、その合間にヒーローやサイドキックの姿が見えた。
「初の日本公演だし、知名度も相まって厳戒態勢って感じなのかなぁ?」
「やっぱそこまで人気出ちゃってるよねー!嬉しいけど、古参としては複雑!」
「ごめん、新参者です…」
「はいいの!引き込みたかったから!」
あはは、と笑い合いながら、何度か角度を変えて思い出を数枚撮る。友人が写真の出来栄えを確認してもらっている間に、私はいそいそと出したグッズをカバンに戻した。
すると、「お姉さん、はい」と声をかけられた。
くぐもった声の主を見る前に、その手に摘まれたぬいぐるみキーホルダーが目に入る。
さっき物販で買ったばかりの推しのイメージキャラのぬいぐるみ。どうやら落としていたらしい。
せっかくの戦利品を…しかも地面に落とすなんてと思いながら、「すみません、ありがとうございます」と言って両手を差し出して、声の主を見上げた。
「あ、え…?」
そこには、プロヒーローのセロファン─もとい彼氏である瀬呂君がいた。
黒いメットを被っているのでどんな表情をしているのかはわからない。
思わず受け取りかけた手が固まる。どうしてここに、と言おうとすると、彼の方から声をかけられた。
「大事な推しのグッズだよね?俺が拾ってあげなきゃ、ここに置き去りにされちゃうとこだったよなー」
そう言うと、ぬいぐるみの手を目元に宛てがい、「えーん」と人形劇のように泣き真似をした。
正直、立ち尽くすばかりで言葉が出てこなかった。
ここにいる何千人もいる人の中から、何故自分が見つけられたのか、それも怖くて不思議だけど…
